2013自动车用空调过滤器

自動車用エアコンフィルタ ＊

原 慎一1)

Automotive Cabin Air Filter

Shinichi Hara

. KEY WORDS: (Standardized) Air conditioner, Air quality/odor, Interior environment (Free) Filter, Dust [D1]

1.はじめに

自動車用エアコンフィルタ(Fig.1)は1980年代後半に、スパイクタイヤの粉塵対応で装着されて以来、車室内の快適性を求める声の増加により、需要が急増し、現在ではほぼ標準装備と言えるほど普及してきている。

当初は、粉塵を集塵するものが多かったが、次第に活性炭を配合した脱臭機能付き、抗菌機能、抗アレルゲン機能、抗ウイルス機能、ビタミンC発生機能など、さまざまな機能を付加されたフィルタが開発されてきている。

今回は、フィルタの機能に加え、その評価方法、評価事例についてまとめて報告する。

Fig.1 Automotive Cabin Filter

2.フィルタの付加機能

自動車用エアコンフィルタは、一般に助手席の足元にあるエアコンユニットの内部に設置され、外気導入時、内気循環時の両方の空気を清浄化出来るようになっている。(Fig.2)

フィルタには、エアコン内部のコンポーネントを塵埃から保護する機能と、乗員の快適性を向上させる機能がある。近年は、基本機能の集塵、脱臭だけでなく、乗員の快適性を改善するために、さまざまな機能が付加されている。

* 2013年11月8日 自動車技術会シンポジウムにて発表．

1)㈱ヴァレオジャパン（366-0054 埼玉県熊谷市千代39）

Fig.2. Filter layout in the vehicle.

2-1微細塵(PM2.5)除去機能

2013年の冬、中国から発信された報道で、PM2.5への関心が一挙に高まってきた。PM2.5は2.5μm以下の微粒子で、人体の呼吸器に沈着し健康への影響が懸念される。

一般に塵埃は、自然発生源のものと、人工的なものの2種にわけることが出来る。PM2.5と言われる2.5μm以下の粒子は、人工的に発生したもので、燃焼機関の排出ガスや、光化学反応などによって形成される。

このような微小な粒子を除去するためには、濾材との衝突では難しく、帯電させた繊維を用いて静電気の力で除去する必要がある。静電気を帯電させた繊維としては、メルトブロー法によって製造した不織布を永久帯電させるものが製品化されている。

2-2 抗菌機能

フィルタの設置されるエアコン内（HVAC内）は、夏になると高温高湿環境となり、微生物が繁殖しやすい環境となっている。フィルタ上には、色々な塵埃などが捕集されそれが栄養源となっ て微生物が繁殖し、臭いの発生原因となっていると言える。

現在では、エアコンフィルタには抗菌、抗カビ処理を施し、微生物の繁殖を防止する構成になっている。

2-3抗アレルゲン機能

車室内には様々な、アレルゲンが存在している。車外からはス

ギやブタクサなどの花粉、車内ではダニ、ペットの毛などのアレルギーの原因となるような物質が浮遊している。

そこで、アレルゲンの不活化を目的に、抗アレルゲンフィルタが開発されている。

抗アレルゲン材としては、酵素やポリフェノール類が添着されている。ポリフェノールの場合は、アレルゲンの周囲にポリフェノールが吸着され、抗体との反応を阻害する効果があると言われている。酵素は、アレルゲンたんぱく質を分解することにより効果を発揮する。1)

2-4抗ウイルス機能

近年、抗ウイルス効果を有するフィルタが提供されている。 抗ウイルスフィルタとは、不織布に抗ウイルス効果を有する材料、例えば、銀イオン、銅イオン、ヨウ化化合物、酵素などのたんぱく質、ポリフェノールなどを添着するものが一般的である。例えば、銀イオンの場合は、ウイルスの活動を抑制し6)、ポリフェノールタイプではウイルスにポリフェノールが吸着され、その活動を抑制するものである。

2-5ビタミンC 発生機能

不織布にビタミンC 成分を添着し、車内にビタミンC を供給するフィルタである。ビタミンC は、一般的にアスコルビン酸リン酸マグネシウムなどの安定化させたビタミンC 成分を、セラミックに保持する形で添着され、環境による劣化を防止し、寿命を確保している。

ビタミンC は、空気中の水分により放出することで出来、乗員の肌の保湿が保たれると言う効果が報告されている。 3.

フィルタの評価方法 3-1集塵脱臭試験

フィルタの評価方法としては集塵脱臭の基本性能は、ISO によるスタンダードがある。集塵性能はISO TS11155-1、脱臭性

能はISO 11155-2となっている。2,3) この中で、集塵試験方法に

ついては、日本で従来より実施されている方法と若干異なっている。

Table1 Comparison of Dust Performance T

est

Table1に、ISO 集塵試験方法と、従来の大気塵による試験方法の違いを示す。両者ともパーティクルカウンタを用いて、フィルタ上下流の、0.3μm から5μm の粒子の濃度をカウントし、除去率を求めるが、粒子の種類が大気塵方法では、大気中に浮遊する粒子を測定するのに対し、ISO 法では、HEP A フィルタにより大気粒子を除去したあとにSAE Fine ダストを供給し、その中の微細な粒子数をカウントするものである。また、ISO 法ではSAE Fine ダストを供給時に帯電を除去する必要もある。 脱臭試験に関しては、フィルタの上下流のガス濃度を計測し、ワンパスでの除去率を求めるとともに、経時的に試験を実施し、脱臭の持続時間を求めるものである。

3-2 抗菌?抗カビ試験方法

フィルタはエアコン内部に設置されるため、夏季は高温、高湿度の環境に放置される。さらに、車内外の有機物を捕集するため、その腐食により、異臭の原因になる可能性がある。そこでフィルタは抗菌機能が重要になっている。

抗菌?抗カビ試験方法としては、一般的にJIS に準ずる形で行っていることが多い。JIS としては下記を使用している。 抗菌試験：JIS L1902 4) 抗カビ試験：JIS Z2911 5)

抗菌試験では、界面活性剤を添加した試験菌懸濁液をフィルタに付着させ、18時間後の菌数を測定し、微生物の減少率を求める。微生物としては大腸菌や黄色ブドウ状球菌が使われる。 抗カビ試験では、クロカビなどのカビの混合胞子懸濁液と寒天培地を試験に使用し、フィルタ上のカビの繁殖を定量化する。所定時間(72時間)放置し、フィルタ試験片上のカビの繁殖を半定量化し有効性を判断する。

3-3抗アレルゲン試験方法。

抗アレルゲン試験は、アレルゲンを定量化するため、酵素免疫測定法(ELIZA 法)または免疫クマト法(EIA 法)と呼ばれる試験が行われている。

ELISA 法は、水溶液中のアレルゲンの量を酵素との反応により定量化する方法である。具体的には、スギ花粉やダニなどの抗原溶液を、フィルタ試料と一緒に所定時間放置し、残存するアレルゲンの量を定量化し、減少した分を不活化率として表すものである。

EIA 法では、抗原溶液をフィルタ試料と一緒に放置するまでは、ELISA 法と同様であるが、溶液から抗原をクロマトグラフで分離し、抗体との反応を色の変化で確認するもので、変色により半定量分析を可能としている。

3-4 ウイルス不活化試験

ウイルス不活化試験は、抗アレルゲン同様、ウイルスの定量により、フィルタの抗ウイルス機能を定量化する手法である。

試験方法としては、ウイルス浮遊液を調製し、一定サイズのフ

ィルタ試料上に滴下し、所定時間(一般的には24時間)放置後、細胞増殖培地を用いて、CO2インキュベータで数日間培養し、培養後、倒立位相差顕微鏡にて観察し、Reed-Muench法にて50%組織培養感染量を算出してウイルス感染価を換算する。ウイルスとしては、インフルエンザウイルスやネコカリシウイルスが用いられる。

3-5ビタミンC発生試験

ビタミンC発生機能を有するフィルタの評価としては、空気中のビタミンC濃度を定量化する方法がある。

これは、車室内の空気をバブリングによりサンプリングし、純水中のビタミンC量として、アスコルビン酸濃度を、DDPHラジカルの還元量として定量化する方法である。

DDPH(1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル)をエタノールに溶解し、バブリングした純水を加えると、抗酸化作用のあるアスコルビン酸によりラジカルが減少する515nmの波長の吸収が低下する。これを紫外可視分光光度計により定量化することで、空中アスコルビン酸濃度の検出を行っている。

4.フィルタの評価事例

4-1微細塵捕集試験

メルトブローを使用して、微細塵除去可能なフィルタを作製し性能を測定した。メルトブロー濾材としては、ポリプロピレン（PP）を使用し目付量は30g/m2を用いた。

まず、ISO法と大気塵法の比較を行った結果をTable2に示す。

Table2. Dust collection performance.

Table2で分かるように、ISOの方法を用いたほうが、高い性能を示している。粒子の違いや、測定機器の影響が考えられる。 また、このフィルタを用いて、実際に中国にてPM2.5の除去効果を確認した。(Fig.3)。PM2.5測定は、携帯型大気汚染測定器CW-HAT200を用いて行った。

Fig.3 PM2.5 measurement result(China Shijiazhuang)

試験は石家庄市において、実車を用いて行った。車両はアイドリング状態、エアコンの風量は3/7速にて実施した。PM2.5の初期濃度は、55～90μg/m3であった。RECモードで使用した場合、通常のフィルタ(?)に対し、メルトブロー不織布を使用したフィルタ(■)は、PM2.5の低下が著しく、約4分の作動で90%以上減少させることができ、PM2.5の除去に対して有効であることが判明した。

4-2抗菌?抗カビ試験

フィルタに抗菌材として、有機系抗菌剤を採用した場合の、抗菌性能の評価事例を紹介する。バクテリアとして黄色ブドウ状球菌を用いて実験を行った。Table3に結果を示す。結果は対数表記で、4.4は104.4を表している。Table3で分かるように試験前の菌数が約10000であったのに対し、18時間で10程度に減少(殺菌活性値)、自然増加を考慮した静菌活性値では、対数で約6桁の減少があり、抗菌性に有効であることがわかる。

Table3. Anti-bacterial test result

Bacteria: Staphylococcus Aureus

4-3抗アレルゲン試験

ポリフェノールを添着したフィルタ濾材を使って、アレルゲンの不活化試験を実施している。

Fig.４に免疫クロマト法（EIA法）による、試験結果を示す。ダニアレルゲン（Der F2アサヒビール薬品製）2μg/mlを含む水溶液を1x10cmの濾材に1ml滴下し24時間放置後、フィルタ上の液に、マイティチェッカにてアレルゲン残存量を評価した。図中

の日本の赤い線のうち、右側のラインは実験の有効性確認用で、ともに赤くなっており、試験は有効であることを示す。左側のラインで、赤が濃いほどアレルゲンの残存が多いことを示すが、抗アレルゲン処理を施したフィルタは、残存アレルゲンが少ないことが分かる。

Fig.4 Anti-allergen test result

また、ELISA 法によると、より定量化がはかれ、Table4にスギ花粉とダニアレルゲンでの評価結果を示す。試験は、アレルゲンCry j1およびDer f2を用い、1cmx4cm の濾材上に滴下し25時間放置して実施した。抗アレルゲン濾材では、95%以上アレルゲンが減少していることがわかる。

Table4

ELISA test results of anti-allergen media

4-4 ウイルス不活化試験結果

例として、ポリフェノールによるウイルス不活化試験結果を紹介する。ポリフェノールを添着した濾材(3cmx3cm)に、インフルエンザウイルス(大日本製薬㈱)を配合した浮遊液0.2ml を滴下し、24時間放置後、洗い出し、ウイルス感染価を求めた。

Table5 Anti-virus test result

Table5に示すように、インフルエンザウイルスの感染価が、コントロールの6.5から2.5以下に低下し、1/10000以上の効果があることが確認できた。

4-5 ビタミンC 濃度測定結果

アスコルビン酸リン酸ナトリウム（APM）をセラミックに担持させ、それを濾材に添着したフィルタを用いて、車内の空気中ビタミンC 濃度の測定を実施した。

図５に、フィルターへのAPM 添着量と、測定した空気中のビタミンC 濃度の関係を示す。APM 添着量が多いほど、空気中のビタミンC 放出量も増加していることがわかる。

Fig.5 Vitamin C concentration and APM impregnation. 5.まとめ

フィルターは、1980年代の後半に、自動車用エアコンに装着されてから、各種の機能が追加され、現在では標準装備に近い装着率になっている。

また、フィルタは定期的に交換して新しくすることにより、その機能を100%発揮することが出来る。ユーザの認識も定期的な交換が必要と言う認識を高めることで、交換需要も増加していくと考える。

今後も、さらに快適性を求める声も高まっていることから、新しい機能を付加したフィルタの提案がされていくことと思われる。

6.参考文献

1) アレルギーに対応した空気清浄ルームエアコン、三菱重工技報 Vol.41 No.2（2004-3） 2) ISO TS 11155-1(2001) 3) ISO 11155-2 (2009) 4) JIS L1902(2008) 5) JIS Z2911(2010)

6) ㈱デンソークリーンフィルター